K&R(誘拐ビジネス)

背景と現状
ペレストロイカ以降、世界中の反政府組織(テロ組織)の活動資金が底をついています。自分で稼ぐ必要性から彼らが目をつけたのが麻薬で、チェチェンやコソボ、アフガンなどのイスラム系武装集団や南米の極左テロ組織が、麻薬の生産と運搬に活路を見出しています。
莫大な利益を生む麻薬はレーニンすら骨抜きにするようで、60〜70年代には純粋に共産主義を掲げていた南米の反政府組織も麻薬の生む利益に徐々に蝕まれ、純粋に営利を目的とした組織犯罪者に成り下がっているのが現状です。

連中がさらに手を染めているのがK&R(誘拐&身代金)ビジネスで、先進国の多国籍企業が派遣してくる技術者などを片っ端から誘拐し、多額の身代金をせしめています。

80年代までは、身代金を要求され、困り果てた企業が警察に通報すると、それを知った犯人が人質を殺し、「はねた首」を小包で送り届けるという荒っぽい方法がトレンドでしたが、今では身代金を支払えば開放するという「暗黙のルール」が出来上がっており、人質の生還率が高くなっています。

96年8月10日にメキシコのティファナで「サンヨー・ビデオ・コンポーネンツ」の金野社長が誘拐され、同月19日に開放された事件が、まさにこの「暗黙のルール」通りの展開で、空白の9日間に身代金の金額交渉など、新聞からでは知ることのできない様々な駆け引きがあったことでしょう。

対応の現状
この「暗黙のルール」に目をつけたのは、テロ組織だけではありません。
イギリスのロイド保険に代表される大手損保会社が、身代金保険なるものを発売し、多くの多国籍企業が顧客となっています。この保険は、誘拐後に要求された身代金を代行して支払うというものです。

保険会社は、顧客が誘拐事件に巻き込まれると専属の交渉人を現地に派遣し、身代金の金額交渉(値切り交渉)や受け渡し方法、人質回収の段取りなど、全ての事後処理をコントロールします。交渉人を元SASなどの特殊部隊出身者が勤めることが多いのは、「かなりの危険が伴い、特殊な軍隊的能力が要求される人質回収」をトラブルなくこなすためです。

交渉人は、雇い主(保険会社)の負担を減らし、現地警察が捜査する時間を稼ぐために、じっくり腰を据え、長期戦で値引き交渉をします。しかし、このことは誘拐する側のテロ組織も良く知っており、最初に法外な金額を要求する、頻繁に人質を移動させるなどの方法で対抗しています。

保険会社以外にも「暗黙のルール」利権に群がる連中がいます。
現地の警備会社は高価な警備機材を大量に売りつけ、大勢の武装警備員を派遣するなどして私服を肥やします。しかし満足な教育を受けていない警備員の練度の低さは致命的で、携帯している銃の取扱いもままならない、すぐに撃ちたがる、警備機材を満足に運用できないなどトラブルの種になるだけで、抑止力になっていないのが実情です。

誘拐を目論むテロ組織は軍隊です。彼らは実行前に入念に下見をし、警備会社にスパイをもぐりこませるなどして費用対効果を計算するため、形だけの警備では効果がないのが現状です。

人質保険の目的は、事件に巻き込まれた企業の負担(身代金)を軽減ざせることです。無いよりはましですが、予防策にはなりません。また現地の警備会社を利用する「全てお任せ警備」に抑止力を期待するのは酷です。

対策
予防に重点を置き、即応と時後処理の手順を充実させるのが組織危機管理の理想ですが、同じ手法がK&R対策にも当てはまり、「即応」は警備会社、「時後処理」は警察を利用するのが一般的です。
一番の問題となるのが「予防」で、警察から提供され、警備会社から吸い上げる情報を当事者自身が評価・分析する必要があります。「警備会社をどのように活用するのか?」「警察との連携は?」など、全ての実働業務は当事者が、的確に現状を判断できているのかどうかにかかっています。

注意すべきは、警備会社などの言いなりにならないことです。他人任せのK&R対策は当事者の意にそぐわない方向に暴走することが多いため、注意が必要です。
また、「この程度で良い」などと明確な根拠なしに妥協しないことも重要です。自己満足的な判断は、現状に噛み合わず、時間の経過とともに前時代的で効果のないものになりがちです。専門家を介入させ、アドバイスを受けるなど、外部による「客観的な現状評価」が不可欠でしょう。

K&R対策に介入する専門家は、依頼主の意を汲むコーディネーターとしての能力が要求されます。依頼主の本業(収益)と警護上の必要性(支出)の間でバランスを取り、脅威の程度を継続して評価し、要求される警護能力を維持管理するのが主な役割です。それ以外にも地元警察との交渉や連携、外部に流出する情報のコントロール(阻止と操作)、依頼主の自宅や社屋などを警備する警備会社の管理・運営など、関連する業務を一括にコントロールします。

また、襲撃者に実行を断念させるには、襲撃がハイリスクであると知らしめる必要もあるため、専門家には目に見える抑止力としてボディガードの能力が要求されます。
ボディガードと襲撃者の間にも「暗黙のルール」が存在します。優秀なボディガードは目立たず、控えめに「このVIPを警護している。ハイリスクだから他のVIPを狙え。」という襲撃者にしか分からないメッセージを発信しながら依頼主を警護します。その存在だけで襲撃者に実行を躊躇させられるでしょう。




発展途上国では、司法が正常に機能していないことが多く、地域ごとに麻薬ディーラーや反政府組織が支配しています。彼らに搾取される大多数の貧民は短絡的に犯罪を重ね、日銭を稼ぎます。
民族性や地域性が根強く、余所者を嫌う傾向が強いことにも注意するべきでしょう。無法地帯で満足に給料を得ていない警察官や警備員は賄賂に弱く、職務上知り得た情報を垂れ流します。余所者であれば何の躊躇もなく売り飛ばすはずです。


このように敵対はしていないが、必ずしも友好的ではない地域で営利を目的に活動するには、自分の意を汲む「信頼できる専門家」をコーディネーターに据え、一定の距離を置きながら、環境と折り合いをつけていくのが理想でしょう。

関連情報

アメリカの政府系組織「OSAC」が、海外に渡航する自国民向けに渡航先の危機管理情報をリアルタイムで提供しています。

ほぼ全世界をカバーしており、特定の国の治安状況からテロ組織の情報まで、大まかな概要を把握できます。危機管理計画の立案段階で参考になるでしょう。


http://www.ds-osac.org/



すでにトラブルにお悩みの皆様向けには、「無料相談」を準備しています。
まずは専門家の意見を確認し、今後どのように対応するのかを決めてください。

※無料相談

※これまでの実績はフォトギャラリーから確認できます